約 3,137,140 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1254.html
それはゴールデンウィークも明けた五月半ばのことだった。 読書以外の趣味もなく本を読むのが日課だったわたしは日曜日、遅い昼食を終えてから新しい本を探そうと市内にある図書館に初めて足を運んだのだった。 館内は本を読むのに適した明るさの照明で照らされており、平日なのにも関わらず多くの人で賑わっている。と言っても図書館なので騒いでいるような人はいない。 人の多いところはあまり好きではないが、ここはそれぞれが自分の空間を持てるためわたしも落ち着いて読書ができそうだった。そもそも、図書館とはそういうものなのだが。 書棚から適当な本を取り出しては開いて目ぼしいものを何冊か見つけると、わたしは本の重さに少しよろけながらも近場にあったテーブルに本を慎重に置き、息を一つついてから椅子に腰を落ち着けた。 今わたしがいるテーブルには他の誰も座っていない。わざわざそういう場所を選んだ。近くに人がいると落ち着かないから。 何となく辺りを見回して改めて図書館の静けさを味わってから、わたしは本の表紙をめくった。 それは高校生から大学生に至る二人の男女が織り成す恋愛小説。 SFでもミステリでもファンタジーでもない、ごく普通の世界の物語だったが、透明感のある作風にわたしは自然と惹かれていった。 四分の一ほどまで読み進めた辺りでわたしははっと顔を上げ時計を探した。もうそろそろ閉館時間になろうとしている。 時間を忘れて読書に没頭していたらしい。悪い癖だ。 続きは帰ってから読もう。そう思い本を借りるためにカウンターへと向かったわたしはそこではたと気が付いた。 本を借りるためには貸し出しカードを作ればいいのだろう。でもどうやって作ればいいのだろうか? 職員に聞こうとしたが数少ない職員たちは皆忙しそうにしている。今話しかけても迷惑になるかもしれない。 閉館時間は刻々と迫ってきている。今日借りられなかったらまた来週来なければいけない。 焦りだけが募り、わたしはただいたずらにカウンターの前でおろおろとするばかりで、 「何してんだ?」 突然背後からかけられた声に思わず小さく飛び上がり恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはわたしと同年代くらいのラフな格好をした少年が怪訝そうな面持ちで立っていた。 「お前、北高の生徒だろ? さっきからうろうろしてるみたいだけど、どうした?」 大人びているとは言えない容姿ながらどこか達観した物の見方をしていそうなその少年は、わたしに対して気負いするふうもなく言った。 何故この人はわたしが北高の生徒であると知っているのだろう。 「ああ、いや。俺もそこの生徒だからさ。その格好を見てな」 わたしが不思議そうな顔をしていたのを察してか、彼はわたしが訪ねる前に弁解すると、 「でも休みに制服着てるなんて珍しいな。いや、それはいいんだが、どうしたんだ?」 多分、わたしの様子を見かねて声をかけてきたのだろう。 人と話すのは得意ではなかったがわたしは意を決して、 「……その……本を、借りようと、思って……」 蚊の鳴くような声が途切れ途切れに出てきた。いつも感じていることだが、口下手な自分が少し嫌になる。 「もしかして、借り方が分からないのか?」 わたしは頷いて、何とか言葉を紡ぐ。 「図書カードの作り方が……」 「職員に聞けばいいじゃないか」 彼が首を動かしてカウンターに目をやる。 それは分かっているのだけれど、どうしても声がかけられなかったのだ。 わたしの訴えるような視線を感じたのか彼は少し困ったような顔をしてから納得したように、 「あ? あー……そうか。何となく話すの苦手そうだしな」 わたしに背を向けてカウンターまで歩いていき、手に持っていた本をカウンターの上へ置いて職員を呼び止めた。 「すいません、これ返したいんですけどいいですか? それから――」 「ほら、これ」 一仕事終えた後のような表情の彼に手渡されたのは、手続きをするのに使ったわたしの生徒手帳と、わたしが借りようとしていた本。それから、図書カード。 「しかし休日も制服の上に生徒手帳も持ってるなんて真面目だな。いや、別に嫌味ってわけじゃないんだが」 そう言って苦笑する彼からは、確かに嫌味のようなものは感じられなかった。 それよりもわたしは彼に対する感謝と彼の手を煩わせてしまったことに対する申し訳ない気持ちで頭がいっぱいでそんなことを考える余裕もなかった。 制服を着ていてよかった。もしも着ていなかったら彼は声をかけてくれなかったかもしれない。 「それじゃ、俺は用事も終わったから帰るけど、お前も気をつけてな。もう遅いし」 そう言うと彼はひらひらと手を振って出口に向かって歩き出した。 「待って」 わたしは慌てて遠ざかる彼の背中に声をかけた。少し声が裏返ってしまった。 彼が不思議そうな顔で振り向く。 「あの――」 彼がいなかったらこの先わたしはこの図書館で本を借りることができなかったかもしれない。だから―― 「――ありがとう」 あれから半年、彼とは顔を合わせていない。 あの時彼の言っていたことは本当で、校内で彼の姿を見かけたことは何度かあった。 声をかけようと思ったこともあった。だけど、そんな勇気をわたしが持ち合わせているはずもなく、ただいたずらに時間が過ぎていってしまった。 まるであの図書館の時と同じように。 彼に近付きたかった。彼と話がしたかった。 何故だろう。たった一度、図書館で親切にされただけなのに。 彼のことを考えると胸が苦しくなって、その理由が分からないことが辛かった。 ……いや、本当は分かっていた。 分かっていたから、わたしは精一杯の勇気を振り絞って行動に出た。 彼が一年五組の生徒であることを知ったわたしは、同じクラスにいるわたしによくしてくれる女子に頼んで、放課後、文芸部に来てくれるように頼んだ。 帰宅部であるらしい彼を、文芸部に誘う為に。 ……我ながら回りくどい。 幸いにも彼は図書館でのことを覚えていてくれた。だったら、わたしの言うことは一つだ。 あの日、あの時、あなたに出会ってから―― 「わたしは、あなたのことが――」 目を開けると、白い天井が見えた。 やけに体が重い。規則的に聞こえる不可解な電子音が耳にうるさく響く。 ふと自分の体を見るとわたしの腕には何本ものコードのようなものが繋がれていて、その一つを辿るとそこにはブラウン管に波を打つ線とそっけない文字列を映し出す機器があった。 ――それは紛れもなく心電図だった。 気が付けばわたしの口と鼻には人口呼吸器が取り付けられており、わたしはそれのおかげでかろうじて呼吸ができているという状態だった。 首を動かして反対側を見るとそこには白い簡素なテーブルがあって、その上に一冊の本が置かれていた。 それは、あのとき図書館で読んだ――はず――の、ごく普通の世界で二人の男女が織り成す恋愛小説だった。 そこでようやくわたしは思い出した。 ここは病院で、わたしはこの病院の入院患者なのだということを。 そして、わたしは悟った。 彼との思い出が、全て夢だったということを。 目の端から、熱いものが零れ落ちた。 それは、水よりももっとずっと寂しい粒。 わたしは目を閉じる。 夢の続きを見る為に。 そしてわたしは、深い眠りに落ちていく。 例えこの身が朽ち果てようとも―― わたしは、わたしの夢の中で生き続ける―― 「…………」 この三点リーダは長門と俺の分だ。 ハルヒのやつが機関誌第二段を作るとか言いやがったので俺たちは再び作文に四苦八苦するハメになったのだが、今回恋愛小説のクジを引き当てたのがこともあろうに長門で、ハルヒは嬉々として長門の恋愛小説を待ち望んでいるらしいのだが完全に煮詰まっていた俺も長門の恋愛小説に興味がないわけはなく、意外にも早々に完成したらしいそれを気晴らしに読んでみたい旨を告げたところこれまた意外にも長門はあっさりと快諾してくれたので読ませてもらったわけなのだが、正直言って俺はどう言ったものか悩んでいた。 もしかすると、幻想ホラーってのはこういうもののことを言うんじゃないのか? 何となく長門が何か感情みたいなものをその無表情の中に浮かべていないものかと思って、コピー用紙から目を離して長門の顔を見てみたもののそこにあったのはいつもどおりの果てしない無表情で、 「どう」 甚だ短い疑問詞が疑問符もなしにどこまでも平坦な声で俺の耳に届けられた。 「いやあ……」 何というか、正直言って俺にはこの話に対して言うべき言葉が見当たらない。見当たったところでそれは言うべきものでもない気がする。 「そう」 やはり抑揚のない声で言った長門は別段不快そうな表情をするわけでもなく――仮にこいつが何かしらの感情を出していたのだとしても無表情なのには違いないのだが俺にはそれを読み取ることができるし、長門の表情を読み取ることに関しては誰にも劣ることはないだろうことを自負する俺が言うのだから間違いはない――くるりと俺に背を向けるといつもの定位置に座って読書を再開した。 長門は特に気にしている様子もなかったが、俺にとっては大問題だった。 他の奴が見ても少しばかり欝なだけのショート・ショートくらいにしか見えないだろうが、俺にとっては喪失した自身の記憶の断片を見せつけられたようなもんだった。もちろん実際に体験したわけではないので喪失したというのもおかしな表現だが、それでもその記憶が『俺』のものであることは間違いなく、俺はまるでもう一人の自分の記憶を追体験したような気分になっていた。 正直言って、他の誰にも読ませたくない。ハルヒがまだ読んでいなかったのは幸いだった。長門には悪いが、長門の担当する小説のジャンルを変えるようにハルヒに提言しておこう。あいつが応じるかどうかは分からんけどな。 だが、その前に確認しておかねばなるまい。 「なあ、長門」 「なに」 長門は本から目を逸らさずに応える。 「あの世界の改変のときな……、お前にはあの改変されたお前の記憶は、あるのか?」 長門はゆっくりと俺の方を見ると、 「ない」 その言葉に俺が口を開く前に長門は付け加えた。 「あのわたしはわたしであるが、意識、記憶ともに今あるわたしのものではなく、同期を取ることも不可能。よって、わたしにはあのわたしの記憶はないし、その意識を推し量ることもできない」 「それじゃあ、何で」 お前は、この話を書いた――いや、書けたんだ? 「…………」 長門はビー玉のような瞳でじっと俺を見つめた後、先ほどの動きを逆再生するように本に視線を戻して言った。 「わたしは、わたしだから」
https://w.atwiki.jp/tereport965/pages/13.html
学園線(がくえんせん)は、学園都市建設に伴い、長門~学園都市が開通した路線である。 年表 1995 学園都市計画に伴い着工 1996/3/10 学園線(長門~白井)開通。 1997/3/10 学園線(長門~学園都市)開業に伴い全通。 1999/3/10 学園支線(学園都市~東白井)開通。 2000/1/1 学園線CTCトラブルにより、全区間運休。(~1/3) 2005/3/10 209系就役。 2009/08/29 ガケ崩れのため、支線廃線。 2010/3/10 103系引退。 駅一覧 駅名 ふりがな 長門から㌔程 停車駅(各停△・急行○・通急◎) 長門 ながと 0.0 ◎ 上条 かみじょう 0.5 ○※1 常磐台 ときわだい 1.2 ◎ 常盤台中学前(学舎の園) ときわだいちゅうがくまえ(まなびやのその) 1.5 ○ 柵川短大 さくがわたんだい 2.3 △ 柵川 さくがわ 2.9 ○ 柵川中学前 さくがわちゅうがくまえ 3.5 ○※2 都市中央 としちゅうおう 3.9 △ 白井 しらい 4.5 ◎ 佐天 さてん 6.5 ○※3 学園都市 がくえんとし 10.6 ◎ ※学園都市以遠は初春線参照。 ※1・・・朝ラッシュ時の急行が停車。 ※2・・・朝ラッシュ時の急行が停車。 ※3・・・土曜日は急行が停車。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5718.html
ある日の放課後。文芸部室には俺と長門だけである。ハルヒは掃除当番、朝比奈さんは進路相談があるとか言ってたな。小泉は知らん。 とくに何をするでもなくボーッとしていると、ふと長門の熱い視線に気がついた。 なんだ? 「なんでもない」 そう言うとおもむろに立ち上がり、本棚へ向かう。 まったく足音を立てないウォーキングスタイルだ。体重あるのか? 窓辺の指定席に戻ってきた長門の手に本はない。 「…」 どうやら俺を観察することに集中したいらしかった。 まいったな…。なんか宇宙人的な行動をとってやった方が喜ぶんだろうが…。 「…」 「…」 まだかな…朝比奈さん…。 「…」 「…」 …小泉…お前でいいから早くこい。 「…」 「…」 視線が痛いよ。 場が保たん。 何か話すか。 とりあえず前から気になっていたことを話題にあげた。 「なあ。長門」 「…」 「有機生命体の『有機』ってつまり、生命力を有するって意味だよな」 「そう」 「じゃあ、情報…正当…違うな…なんだっけ?」 「情報統合思念体」 それだ。 「その情報統合思念体は無機生命体なのか?」 「…」 長門が押し黙った。まあもとから黙っているのだが。 俺は続けた。 「無機生命体って、つまりは『生命力を有さない生命体』ってことだよな。それって矛盾してると思うんだが」 「…以前わたしは『情報統合思念体に生死という概念はない』と言った」 ああ。言ってたな。 「つまり情報統合思念体は生きているのではない。同時に、死んでいるのでもない」 また矛盾だな。どういうことだ? 「『存在している』というだけ」 『存在している』=『生きている』じゃないのか? 「違う」 よくわからん。いや、さっぱりわからん。 「つまり情報統合思念体は無機生命体なのか?」 またこれに戻った。 「……違う」 なんか歯切れが悪い(ような気がする)。 「言葉ではうまく説明できない。齟齬が生じる」 困ったような表情(でも無表情)を見せる。 「有機生命体でもない。無機生命体でもない」 じゃあなんなんだ? 「情報統合思念体は生命力を保つと同時に、生命力を否定している」 …つまり。また矛盾だな。 なんかお前の説明、矛盾のオンパレードだぞ。 「無矛盾な公理的集合論は自己そのものの無矛盾性を証明することはできないから」 早口にそう言うと、もう話は終わりと言わんばかりに立ち上がって本棚へ向かう。 それとほぼ同時にドアが凄まじい勢いで開かれた。びっくり箱か。 「おまたせ!」 待ってねえよ。 「遅れてすいませぇん」 いや~待ってましたよ。 「これはこれは。遅れてすいません」 ノーコメント。 さて、今日もSOS団の謎の集会が始まったわけだが…。 なにやら長門の無表情が不機嫌そうに見える。 宇宙人第一候補である俺が宇宙人を否定することが気に入らないのか。 「矛盾のオンパレード」なんて言ったのがまずかったか? 分からないが、なんか対長門のご機嫌取りを考えたほうが良さそうだな。 あいつは何をされると喜ぶんだろう。そんな余計なことを考えながらでもボードゲームで小泉に負けることはなかった。 お前ほんと弱いな。
https://w.atwiki.jp/post_map/pages/1181.html
(長野県)上田(長門)郵便局 郵便番号:〒386-06・〒386-07(元は小県和田郵便局が集配) 集配地域:長野県小県(ちいさがた)郡長和(ながわ)町全域。 1.jpg (長野県)長門郵便局局舎 2.jpg (長野県)長門郵便局取集時刻掲示 達成状況[20**年*月**日現在] 普通のポスト ●マッピング済**本。撤去**本。 コンビニポスト ●マッピング済**本。撤去**本。 ポスト考察 ●編集中 ポスト番号考察 ●編集中 設置傾向考察 ●編集中 取集時刻考察 ●編集中 取集ルート考察 ●編集中 時刻などの掲示 ●編集中
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 長門ユキの牢獄 今、俺は長門の部屋にいた。 もしこの狂った夏が終わるならば、俺は自分の部屋にいなければならないだろう 何しろ明日が来れば二学期が始まるのだ。 明日が来れば、の話だ 現在、日本標準時間で8月31日23時33分 つまりエンドレスエイト、その終わりと始まりのがここにある 長門ユキの牢獄4 部屋には甘ったるい香りと汗のにおいが充満していた。 そんな中で俺と長門は仲良くひとつの布団で寝ていた。 まぁ乱れた布団とか見てもらえればナニをしていたかは分かってもらえるだろう。 まぁ冒頭でも語った通り、本当ならこんなとこでこんな事をしている場合じゃないのだが 一年近く夏をすごしたのは伊達じゃない、もはや感覚で分かるのだ 今回もだめだった、と 「どっか根本的な所で間違えてんのかなぁ」 俺は天井を見ながら愚痴るようにつぶやいた。 傍らで動く気配 隣を見ると、長門が俺にだけわかる範囲で微笑んでいた。 ずいぶんと微笑むことが多くなった長門を見て、ふと思う それにしても、俺はこのごろ鬼畜すぎないか?と ちょっと前の海水浴 この間の夏祭りの時 記憶に新しいチビ長門の時 その他もろもろ記憶 いくらなんでもやりすぎだろう。 日をおうごとに凶暴になっていく自分自身に少しだけ恐怖した。 と、投げ出された俺の手を何かが触れた 考えるまでも無い、長門の手だ 僅かに青ざめた俺の顔を見て長門なりに俺の心理を推理したのだろう。 そして、長門の推理の的中率はいつだって100%だ。 俺は長門の目を見ながら解決編が始まるのを待った。 「あなたの凶暴化の原因は記憶継承のせい」 「・・・・」 俺は無言で聞きに入る 「一年近くの記憶があなたを蝕んでいる。」 変わる事の無い8月の日差し 似たような行動をとる友人、家族 一向に分からない問題の答え それらが少しずつ、心のたがを緩くした。 そして、溜まったストレスが溢れ出る その捌け口として選ばれたのが私 そう、長門は語った。 「最低だな、俺」 俺の呟きに、長門が首を振った。 「巻き込んだのは、私」 だから最低なのは私、と長門にしては大きな声で言った。 俺はあまりの長門の必死さに少し笑った。 「じゃあ、間を取ってハルヒが最低って事で良いか?」 俺の言葉に、今度は長門が薄く笑った。 記憶継承、それが俺の凶暴化の原因だとしてもどうすることもできない。 なぜならば、俺という人格は次に継承することで初めて継続することができる。 次の世界に俺がいても記憶を継承していなければそれは俺じゃない、よく似た別の生物だ。 継承を止めてしまえばそこで停止してしまう、極端に言ってしまえば死ぬ存在なのだ 記憶の継承を行っていない、他の一万五千五百人近い俺と同じくな だから、どれだけ壊れようとも大事にやっていかなければならないのだ。 俺は強く長門の手を握った。 確かに感じる長門の温もり あと20分足らずで終わる世界で、唯一確かなものだった。 終わりの瞬間まで、まだ時間がある。 少しばかり時間を持て余した俺はどうでもいい事を考え始めた。 朝比奈さん何してるだろう 妹は今頃寝てるだろうな 俺がいない間にシャミは飢えていないだろうか そういえば夏休みの課題やってないな ……ん? ちょっと待てよ。 夏休みの課題だと? 頭の中に閃くものがあった 俺は思いついた仮説を、今までつちかった涼宮ハルヒの行動心理を元に頭の中で検証に検証を重ねる。 ……… ……………… ……………………… そしてついに俺は、解答にたどり着いた。 ガバッと立ち上がる。 「そうか、そうだったんだ!」 アドレナリンが過剰に分泌され、テンションがニトロブースターを使ったかのように跳ね上がる。 「はははっ、課題?そうか!ハルヒめっ!ひねくれてるにも程がある!」 客観的に見れば、いきなり暴れる俺は毒電波に犯されたかのように見えたことだろう。 だが当事者の俺はあくまでも主観、白熱する頭で他人の目を気にする余裕はない。 「今から。いや、だめだ、時間がない。だがっ」 普通ならば後十数分で記憶ごとリセット、消滅と再生を繰り返すこの世界では記憶というモノは泡のように儚い だが、俺には裏技がある。 記憶継承という言語道断の裏技が! 「この記憶を次に引き継げれば次で、次でこの狂った世界を解放することができぞ」 全裸でガッツポ-ズ トランクスさえ履いていないので汚いものがぶらぶらと揺れるが気にしない そこで俺は世界解放の最重要キー、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスの名を呼んだ。 「長門っ!」 俺は振り向いて、膝立ちになった長門の顔を見る。 長門は、悲しそうな顔をしていた。 あ 燃えさかっていた炎が一気に鎮火した、火照った体が寒さに震えた。 白熱した頭が、醒めた。 「そうか………。」 そして俺は、もう一つの真実に辿り着いた。 「そういうことか、長門。ハルヒだけじゃなかったんだな」 長門は顔を俯かせた。 「この馬鹿げたシステムを動かしていたのは、ハルヒと、そして長門だったんだな」 つまりはそういうことだ、この牢獄を創ったのはハルヒだ。 だが牢獄には脱獄を阻止するための看守が必要になってくる。 その看守が長門、お前だ。 いくら俺がどうしようも無いアホだろうと、15497回も繰り返していれば1回ぐらいは正解を見つけることができただろう。 だが、それは事前に長門によって潰されていたのだ やることは簡単だっただろう、気付きそうな俺がいたら二人で課題をやってしまえばいい 体で釣るのも一つの手だ、俺はほいほいと付いて行くだろう。 ”なぜそんな事を?”というのは無意味だ。 継承した記憶から簡単に推理できる。 長門有希は疲れていたのだ、次々と起こる予測不可能な涼宮ハルヒの奇行に そんな中で創られた閉じた2週間、ここでならハルヒの行動はある程度なら予想できる。 ユートピア、そう呼ぶにふさわしい世界が長門の前に現れたのだ。 しかし、その理想郷も回を重ねるごとに綻びが見え始めた。 ハルヒの行動がほぼ完全にパターン化し、長門の予測の範囲内でしか動かなくなったのだ 退屈は神をも殺す。 もし、長門の心が完全に機械だったらそんな感情は湧かなかっただろう しかし、長門は人の心をもっちまった。 少しだけ自惚れるならば、俺のせいで だからお前は作ったんだ、退屈を紛らわせるために、もしくは退屈を共有するために俺という異分子を そうだ、俺の記憶にはしっかりと残っている 「記憶を次に伝える手段がある」と言う、不安げな長門の姿を あの時の言葉は、どれだけの勇気が篭められたものだったのだろうか 「俺は………」 俺の呟きに長門が顔を上げる。 「俺は、お前の孤独を癒すことができたか?」 「………」 数秒間の沈黙の後、長門ははっきりと頷いた。 「そうか」 俺の言葉で長門は確信しただろう、俺が全ての真実に至った事を 再び俯く長門 俺にはわかる、一年近い日数を共有した俺だからわかる 今、長門は怯えている。 無敵にして無敗、SOS団最強の存在が怯えている。 誰に? もちろん、俺にだ。 俺に悪意によって罵られ、憎悪のこもった拳で殴られるのを本気で怖がっている。 或いは、そうすることが正しいのかもしれない。 しかし、俺の心には憎悪なんて感情は一欠片も無い あるのは哀れみの感情だけだ。 だから俺は、震える長門をやさしく抱いた。 「!?」 有り得ない事態、想定しない状況に長門が戸惑う 「アホだな、ハルヒ並みにアホだ」 そんな言葉が自然と零れた。 それは長門に言ったのだろうか、それとも自分にだろうか? 「明日を否定しちまったら何も得られないなんて、赤子だって知ってるぜ」 「それでも………怖い」 俺は強く長門を抱きしめた。 「誰だってそうだ、それでも騙し騙しやっていくのが人間てもんなんだよ」 暗に自分が人では無いと言われたと思ったのだろう、長門が更に俯く 「勘違いすんなよ。もうお前は立派な人間だよ。」 つまらないことで悶々と悩むあたりな 「………」 わずかに顔をあげる長門 「いいか長門、お前は一人で頑張りすぎなんだよ。」 辛かったら誰かに頼ればいい。 俺を頼れ、今回のようにいつだってお前の力になってやる。 「………」 更に顔を上げるが、長門の瞳は俺の瞳を見ない。 傷つくのが怖いのだろう どこまでも臆病で、疑い深く、そして弱い だから俺は一つの提案をした。 「なぁ長門、俺と賭をしないか?」 「?」 やっと俺に視線を合わせる長門 「次の俺が、15498回目の俺が世界を解放できるかどうか、賭をしよう」 「………」 「介入は一切なし、長門は俺の質問に答えるだけ、もちろん正解を教えるのは無し、 この条件で次の俺がこの牢獄を壊せるかどうか?」 答えはすぐに返ってきた。 「無理、確率1%以下」 俺は不敵に笑った 「よし、長門は無理な方だな、俺は壊せる方に賭ける」 「………」 「もし俺が勝ったらこの世界の解放、もし俺が負けたら」 そこで俺は、長門の頭をやさしく撫でた 「この世界をお前がイヤになるまで続けていいぞ、その時は俺もつき合ってやる」 呆然とする長門に俺は畳みかけた。 「どうだ?」 長門は少しの間だけ悩み、そして頷いた。 ふと時計を見ると、0時まで残り時間3分程だった。 長門の家の時計は秒針まで正確なので間違いはないだろう。 俺は少しだけ考え、思いついたことを正直に長門に話した。 「なあ長門、もし次でこの世界が終わったら俺の、この継承し続けたお前との記憶は通常の世界では無かった事になってしまうんだろ?」 長門の体が大きく震え次の瞬間、強く俺に抱きついた。 それはあまりにも残酷な現実 それでも俺は言葉を続けた。 「だったら、お前に俺を罰することを許可する」 「?」 「俺は、むかついているんだ。」 すぐ隣で長門が悩み、傷ついていた事も知らずにへらへらと生きていた自分に無性に腹が立っていた。 そして恐らく、記憶の無い俺も同じようにへらへら生きていくのだろう 「だから・・・そうだな、知り合いの誰もいない異世界にでも送ってやれ、せいぜい慌てふためくぞ」 俺は笑いながら自分の首を絞めるようなこと長門に告げた。 だが知ったことか、どうせその時の俺には今の俺の記憶はない。 「………」 長門を見ると少しだけ不安そうな顔をしていた。 「そんな事をして俺に嫌われないか心配か?」 長門は頭を縦に少しだけ動かした。 「安心しろ、どんなことがあろうとも。俺がお前を嫌いになるはずがない」 最後には必ずお前を許す、と俺は力強く言った。 「何故?」 どうしてそんな不確定な事を断言でいるのか、と長門が問う 俺は少しだけ視線を逸らしながら言った。 惚れた弱みって奴だ、と その瞬間、長門の目から涙がこぼれ落ちた 「俺のこの記憶は、そうだな…長門との初体験が終わった時にでも渡してやってくれ」 そして俺は、泣き続ける長門の唇を強引に奪った。 同時に舌を侵入させ唾液と共に微量のナノマシンを長門に流し込む。 世界の終わりのたびに行われてきた儀式も賭の結果次第ではコレで最後、そう思ったその時 カチッと時計の短針と長針と秒針が仲良く揃った。 俺は名残惜しそうな長門から唇を離した。 光の粒になっていく体、その最後の力を振り絞り俺は言った。 「じゃあ、また明日」 同じく、光になりつつある長門が返した。 「また………明日」 その言葉を聞くと同時に聴覚が消え、視覚が消え嗅覚が消え触覚が消え味覚が消えた 最後に、消えかける意識と記憶の中で呟いた がんばれよ、次の俺 果たして、世界は解放された。 しばらく後 万能のくせに不器用な少女が孤独の果てに新世界という形で罰を実行したのは、また別の話 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 長門ユキの牢獄
https://w.atwiki.jp/boonrpg/pages/22.html
「ぬかるんでるから」 「ギリシア館の謎」 「桐桐人」 「星を見る人」 「海を継ぐもの」 「うろおぼえの偽書」 「誰某」 「ダンボール辞典」 「サザエサン症候群」 ザ・スニーカー2004年12月号で紹介された、長門有希が薦める100冊のパロディ SOS団の部室で顔をあわせるたび、必ず本を読んでいる有希。 「いったい何を読んでいるんだろう?」とみんなも気になっていたはず。 今号は特別に、彼女がおすすめの100冊を選んでもらった。 これを読めば、長門が普段なにを考えているかわかるかも? 以下に解説を記す。 ◆ぬかるんでるから 佐藤哲也著 『ぬかるんでから』 ◆ギリシア館の謎 エラリー・クイーン著 『ギリシア棺の謎』 ◆桐桐人 井上ひさし著 『吉里吉里人』 ◆星を見る人 小林泰三著 『海を見る人』 ファミコンで発売された伝説のクソゲー、『星をみるひと』 ◆海を継ぐもの J・P・ホーガン著 『星を継ぐもの』 上の「海」と「星」が交換されている ◆うろおぼえの偽書 竹本健治著 『ウロボロスの偽書』 ◆誰某 法月綸太郎著 『誰彼』 ちなみに誰某は"だれそれ"と読む([[元ネタ]]は"たそがれ") ◆ダンボール辞典 アト・ド・フリース著 『イメージシンボル辞典』 ◆サザエサン症候群 笠井潔著 『オイディプス症候群』 日曜の夕方になると「翌日から通勤・通学しなければならない」と感じ憂鬱になることの総称
https://w.atwiki.jp/nagatoasakura/pages/11.html
長門の妄失 朝倉の虚偽 Flash 長門の妄失 朝倉の虚偽(1-4) 長門の妄失 朝倉の虚偽(5-8) 長門の妄失 朝倉の虚偽(9-12) 長門の妄失 朝倉の虚偽(13-16) 長門の妄失 朝倉の虚偽(17-20) 長門の妄失 朝倉の虚偽(21-24) 長門の妄失 朝倉の虚偽(25-28) 長門の妄失 朝倉の虚偽(29-32) 長門の妄失 朝倉の虚偽(33-36) 長門の妄失 朝倉の虚偽(37-40)
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/57.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 長門ユキの牢獄 「ほれ」 俺は屋台のおっちゃんから受け取ったものを長門の頭にかぶせた。 「?」 長門は相変わらずの無表情で抵抗はしなかった、俺はそっとソイツを落ち着く位置に直した。 今、長門のショートヘアの上には光の国からわざわざ地球に来たという宇宙人のお面があった。 ぶらぶらと長門と祭りを歩いているうちに発見したお面屋で見つけた物を俺が冗談半分で買ってやったのだ。 同じ宇宙人として気が合うのか違和感なく長門の頭に落ち着いている。 うむ、怪獣とハルヒという迷惑極まりないものを相手にしてる所も似てるかな。 ふと、長門は光の国の戦士とやりあっても勝てるんじゃないか?などと妄想してみるがやめておこう そのとき俺の呼び名は「ウルトラマンより強い女を抱いた男」となってしまう。 一度でも特撮に心奪われたものとしてはあまり呼ばれたくない名だ。 もっとも、俺と長門が付き合っていることを知る奴なんていないのだから戯言みたいなもんだけどな。 長門ユキの牢獄3 「似合うぞ」 俺はお面に隠されていない部分を撫でながら正直に言った。 そこら辺の女ならば間違っても喜ぶ所ではないのだろうがそこは長門だ、口の端をうっすらと持ち上げ微笑んだ。 いい加減慣れてきたが、それでもこいつの微笑みは致死レベルの範囲内だ。 特に今の長門はいつもと違って浴衣姿、襟元から見える白い鎖骨が俺を狂わす。 俺の心拍数を勝手に上昇させ、長門だけにしか感覚のチャンネルが合わなくなる。 今だってこのままそこら辺の茂みに連れ込んでしっぽりとくみつほぐれつしようかな、と本気で…… 「キョンッ!!!」 ガキンッと、俺の頭のチャンネルが無理やり戻された。 俺は背後からいきなりお寺の鐘の音を食らった気分で振り返った。 そこにはいつの間にか、ハルヒが仁王立ちしていた。 「いつまでだらだら歩いんてんのよ!遅いだけならゾウリムシでもできるわよ!」 こいつは先程まで金魚すくいを朝比奈さんとやっていたはずだが…… ――と手元を見てみる、そこには透明なビニールの中にぷっかりと腹を見せて浮いた金魚3匹の姿 かわいそうに先程の音波兵器の被害にあい、お亡くなりになられたのだろう それにしても恐るべきはハルヒ、水中までお構いなしか、流石は地球最高の迷惑女 「あんたが何度呼んでも返事しないからでしょバカキョン!」 あぁ、長門に見とれてたからな。 などとは口が裂けても言うまい、今度は音波兵器(声)ではなく撲殺兵器(拳)を喰らう羽目になる。 「まったく、あんたは団長に対する礼儀ってもんを一度しっかり教え込まなきゃならないようね。 ………あれ?ユキどうしたのそのお面」 俺に是非とも勘弁願いたい宣告をしてからハルヒは俺の後ろにいた長門に、特にその頭に乗っかっている物に注目した。 一瞬、俺はどう答えようか迷ったがとりあえず嘘をつく事にした。 「ああ、さっき長門が「買ってもらった」」 俺の言い訳の途中で長門が答えた。 長門が人の声をさえぎるなんて滅多に無い、俺は少し驚いていた。 「誰に?」 ハルヒはいつもと違う長門に何かを感じ取ったのか、押し殺した声で長門に聞いた。 それに対して長門は――― ぎゅ ―――と俺の服の袖を掴むことで答えた。 当然の答え、長門と一緒にいたのは俺だけだ、突然現れて女子供にお面を買い与える奇特な人間はこの近辺にはいない ……たぶん、いない、確実にと言えない所がこの世界の怖いところだ。 「そう」 呟く様にそう言ったハルヒの表情は、いろんな感情が交じり合った形容しがたいものだった。 あえて言うなら―――嫉妬、だろうか? はっ馬鹿馬鹿しい、この「強引グ・マイ・ウェイ」を地で言ってる女にそんな感情があるはずがない。 現在進行形で俺に、俺たちに迷惑をかけまくる女にそんな感情あっていいはずが、ない その後、微妙な空気は朝比奈さんの国宝指定の天然ボケで一気に霧散した。 流石です朝比奈さん、それとも未来人には空気を読むという常識が存在しないのでしょうか? それはそれで嫌な未来な気がしてきたのは秘密だ さらに古泉と合流した俺たちは団長の鶴の一声により、川原で花火にしゃれ込むこととなった。 「コラッ、何で避けるのよっ!」 「無茶を言うんじゃねぇ!むしろお前の正確すぎる狙いを避ける俺をほめろ!」 ハルヒが気でも狂ったように発射してくるロケット花火どもを、俺は第6感の導くままに回避し続ける。 ハルヒのトサカ頭にしては珍しく自分の発言を忘れてなかったらしく、今俺はきっちりとSOS団の礼儀を教え込まれている。 つーか、古泉。何でお前が手際よく点火したものをハルヒに渡していやがる。 俺の強烈な視線を受けた古泉は あなたは一度、痛い目を見るべきです。といった感じで皮肉げな笑みを浮かべる。 ――――あの野郎。 ちょうどいい、貴様とはいずれ決着をつけようとは思っていた どうやら今がその時のようだ。 当方に迎撃の用意あり!!! 俺は懐に手を入れると、先程花火を買ったコンビニでハルヒから隠れて買った大筒を取り出した。 超極太黒花火「や・ら・な・い・か」 なぜか尻の辺りが寒くなるようなネーミングだ、俺はハルヒの花火を避けながら注意書きを読む。 ※この花火は人に向けて、特に男に向けて打つ花火です。 ※花火発射部分のチャックを下げると勝手に点火します。 ※すっごく太いです。 ※愛は人種と性別を超えます。 俺は少しだけこの花火を買ったことに後悔しつつも発射口を古泉に向けた。 「――――ッ」 突然の反撃に固まる古泉とハルヒ、だがもう遅い。 俺は古泉に向かって、ゆっくりと、チャックを、下ろした。 やらないか? この時、俺の頭に響いた声は幻聴であると信じたい。 筒から飛び出した花火は狙いたがわず古泉に向かって圧倒的な量の光を吐き出した。 その色は、なんだか……黄ばんでいた、その上どういう仕組みなのか少しイカ臭かった。 古泉は回避することもままならず、モロに光を食らい1、2mほど吹っ飛ばされ、倒れた。 「「「「・・・・・・・・・」」」」 俺とハルヒはもちろん、俺たちを見守っていた朝比奈さんや長門まで無言だった。 「……だ、だいじょうぶ?」 ハルヒが恐る恐るといった感じで声をかける だが古泉はハルヒには何の反応も示さず、何事もなかったように俺に背を向けて立ち上がった。 「・・・・・・」 「お、おい」 流石に心配になった俺が声をかけると古泉は体を優雅に半回転させた。 ひと安心した俺に、風に乗って何か背筋の寒くなる声が聞こえてきた。 「……ふふふふふふそうですかそれがあなたの気持ちですかいいでしょうそれならば僕も応えないわけには逝きません」 「こ、古泉?」 もう一度声をかける俺に古泉はぎんっと目を輝かせた。 「―――――やりましょう。」 俺は全力で逃走を開始した。 ―――――――ガサガサ 俺の隠れる茂みをゆらす音に俺は全身をこわばらせた。 奴が、来る。 人を超えた速度を出し、奇声を発し(フォーッ!)ながら追いかけて来るあいつ その影から逃れんと必死に走っているうちにどうやら山の中に入ってしまって様だ。 当然のごとくSOS団女性陣は置いてけぼりだがこの場合仕方ないだろう そんな些細なことより今は目の前の危機だ。 ――――ガサガサ どうする?今発見されたら流石に逃げ切る自信はない、つまりはデッドエンド ならばやるしかない、と俺は近くにあったほどよく尖った木の棒を手に取った。 どれほど血にまみれようとも俺は純潔を失う気はない、たとえそれが自業自得だったとしても! ―ガサガサ いよいよ近づく音に俺が木の棒を振り上げたその時 ひょい と、顔を出したのは長門だった。 「はぁーーー」 がくっと気の抜けた俺はその場で木の棒を手放した。 そして、改めて前を見てみるとそこには浴衣についた汚れを払う無表情な天使がいた。 おそらく俺を探しに、いや見つけに来るためにわざわざここまで来てくれたのだろう。 それを見て、俺の中で抑えていたものがはじけた。 「ながとぉーーーー!」 俺は恥も外聞も忘れて半泣きで長門の胸に抱きついた。 だが、考えてみてもほしい暗闇の中、人気のない山の中を襲撃者におびえながら隠れ続ける。 それが一般人である俺にどれだけ困難で精神に重圧をかけるのかを! 「・・・・・・」 そんな惨めな俺を長門は優しく抱きとめ、無言で頭をなでる。 数分間程そうして、やっと落ち着いてきた。 そしてようやく今の自分の状況を分析できるだけ冷静になった (・・こういうのも、いいな) 俺は今、はっきりと長門に母性を感じていた。 それはもちろん母に似ているとかではなく、自分を包み込んでくれるような、許してくれるようなそんな感覚 葉を青々と茂らした大樹を背に廻し、膝をついた俺を抱えるように聖母のように抱擁する長門 頭を浴衣越しに頭をうずめた乳房からは、長門の香りが仄かに漂っていた。 その甘い香りが俺の中の何かを狂わせた 俺は犬のごとく鼻をこすりつけ、浴衣の胸元をずらした。 僅かに露になった双胸は大きくもなく、小さくもないものだったが、今の俺には至高の果実に見えた。 ここまでくれば俺が何を求めているかはわかって当然だが、それでも長門はただ俺の頭を撫で続ける。 ――ちゅ 俺は一切の遠慮なく長門の乳房に吸い付いた。 「…ん」 わずかに声を上げた長門を無視して俺は舌先で長門の乳首を攻めたてる。 片手で長門を固定し、もう片方の手は余った胸をゆっくりと優しく揉みほぐす。 透けるような白だった長門の体が徐々に赤みを帯びていく 「――んぅ・・・つぁ」 そして押し殺した声も艶が増していく 気を良くした俺は、いっそう愛撫に力を込める。 「ふぁっ」 敏感なところを強く摘まれた長門が声を上げる。 俺は綺麗なものを汚す背徳感と、母性を穢す征服欲にすっかり酔っていた。 と、俺はそこでもぞもぞと俺の腹のあたりで動くものに気がついた。 いったん長門から体を離してみていると、そこには乱れた浴衣から覗く内股をこすり合わせる長門の両足があった。 「――――っ」 わずかに頬を赤める長門、その顔はうつむき俺を見ていなかったが俺にはその姿が雌犬のそれに見えた。 俺は顔に浮かぶ残忍な笑顔を隠そうともせず立ち上がり、もう一度長門に体を寄せた。 そのまま長門の背後にある大樹の間に挟み、両手を長門の柔らかな尻に添える。 そして長門の浴衣が乱れるのもかまわず、腰の位置が合うよう長門をずり上げる。 浴衣越しに掴んだ長門の尻は軽く汗ばみ、俺に長門が下着を履いていない事を教えてくれた。 俺の方はもちろん準備万端、俺の中の熱いマグマは噴火の時を待って火口に集まっている。 俺は手早く肉棒を取り出すと、帯が緩んで前面の肌が完璧にあらわになった長門の中心にある薄い茂み、その入り口に添えた 「 」 長門が熱いため息をこぼす、まるで好物を待ちきれない畜生の吐息だ。 ならばちょうどいい、俺も長門を犯すことしか頭にない獣だ。 畜生と獣の乱交、理性なんてくだらないものはさっさと食い散らかして本能に従って行動しよう。 俺は長門の体重を支えていた両腕の力を少しずつ抜いていった。 今現在、重力の鎖にとらわれている長門の両足は地に付いておらず、下方向に向かって鎖に引っ張られる 「あ、うっ」 自重によって突き刺さる異物に長門の口から悲鳴に似たものが漏れる。 ―――くちゃ…ぺちゃ だが俺はそれには一切かまわず長門の顔を舐めまわす、唇、頬、鼻、瞼、眼球、お構いなしだ。 俺は唾液がついていない部分の存在をを許さず、ただ一心に舌を動かした。 その間も長門は俺の行為に抵抗せずに恍惚の表情を崩さない。 ぬらぬらと光る長門の顔はこの世の者ではないと思わせるくらい、淫靡だった。 「――ん」 と、やっと俺の息子が長門のなかを満たしたようだ。 しかし、だからといって万物に平等主義な重力君は仕事をやめようとしない。 「――ん、く」 俺と長門の身長を比べれば俺のほうが20センチほど高い。 身長差は当然、足の長さにも比例する つまり、長門の足が大地を踏みしめることは無い。 その結果、限界以上に子宮を圧迫する俺の肉棒に苦鳴を漏らす長門ができあがる。 見れば長門のあばらがうっすらと浮かび上がる腹部、そのちょうどお臍の下辺りがほんの少し盛り上がっていた。 「あぅっ」 下腹部を少しだけ力を込めて撫でると長門は、びくんと震えた そしてそれと同時に長門の膣もその締め付けを増した。 まぁ、当たり前だろう。 ただでさえパンパンなのにさらに外から圧力を加えられれば当然といったところだ。 ここでもし俺が初心な少年だったり、慈愛あふれる男だったったら眉をゆがめる長門の顔を見た瞬間、手は動きを止めていただろう。 だが残念ながらここにいるのは、一匹の駄犬だ。 次なる世界を見るためにためらうことなど何も無い! ぎゅっっ! 「――――――、――――――っっ!!!」 俺がふくらみを力いっぱい抓るように掴むと、長門はのどを振るわせるだけの叫びを上げた。 長門の秘部から流れ落ちる愛液はとどまることを知らず、俺の股間と大地をぬらしていく 目をむき、いっぱいに開いた口からよだれをたらしながら絶叫する長門に、俺の嗜虐心は完全に満たされた。 そう、満たされた。 ならば、後は放つだけだ。 幹に押し付けた長門の体は軽く、固定するのには片腕一本で十分だった。 もう一本の腕は俺と長門の接合部へと伸ばす 目的のものはすぐに見つかった、日の明かりの元で見れば痛々しく充血した陰核が見れたことだろう。 俺は軽く、クリトリスを摘んだ。 よし、準備は整った。 後はどれだけ長門が耐えれるかどうかだ。 俺はゆっくりと腰を下げ、陰茎の半ばまでを引き抜き 一気に奥まで貫く! 「―――――――」 肉と肉が打ち合う音と長門の悲鳴が夜の闇に響く だが、まだまだ終わりじゃない。 俺は限界まで長門を貫いた肉棒を、さらに腰を横に振ることでぐりぐりと圧迫する。 「――――、――――――」 今まで触れられた事の無い場所への刺激が、長門を狂わせる。 尻を掴む腕からかつて無いほど体を硬直させる長門を俺は感じた。 だが、それでも俺の嗜虐心は萎えることはない 俺は長門を支えていないほうの腕の指 つまり、長門の陰核を摘んだ指にぐっと力を込めた。 グミほどの硬さしかないようなクリトリスにそれを跳ね返す力など皆無 結果、つねられた陰核は面白いように形を変える 「―――――――――――――――――――――」 面白くないのは長門、限界値をはるかに超える刺激に肺に溜まったすべての空気を使って大気を振るわせる。 伸びきった足は指の先まで硬直し、背中に回された腕は俺の背中に浅くない傷をつける。 長門の痴態を楽しむべく見上げた視界には、長門の狂乱する姿がはっきりと移っていた。 もしここで、長門にとって不幸があるとすれば それは俺が一回のピストン運動で射精する様な早漏じゃなかったことだろう。 俺はゆっくりと肉棒を引き抜くと 一連の工程を最初から繰り返した。 すなわち、突き、抉り、摘む 当然の如く長門が悲鳴を上げるが、そんなこと知ったことではない。 俺は駄犬で相手は雌犬だ。 ただ、種を出すことだけを考えればいい ガシガシと腰を振る ピクピクと女が震える 終わりはあっけなく来た。 「――――っ」 ドクンドクンと長門の中に精子を送り込む おそらくは十数秒ほど出し続けただろう、疲労感が頭の中に染み渡るのを感じた。 手足に溜まった疲労を感じた俺はゆっくりと体を離した、長門はズルズルと木に背を預け力無く座り込む そのまったく意思の感じられない姿を不審に思い、顔を覗き込んでみる 長門は途中から気を失っていたのか目の焦点があっていなかった。 (汗) ちょっーーとばかし、やりすぎちまったかなー と、頭の中で少しばかり反省した。 ようやく理性が息を吹き返したらしい 先程までの乱行を思い出し、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。 湧き上がる罪悪感を感じつつも純粋に介抱するために長門に近づく そのとき、神の悪戯か、悪魔の誘惑か不意に月明かりが長門を照らした。 青白い月明かりに照らされるは乱れた浴衣 形のいい小ぶりの乳房は呼吸とともに誘うように揺らめく 常に知性を感じさせるその瞳も、今は虚ろ 桜色の唇は閉じることなく、涎を流し続ける 投げ出された美しい両足は時たま弛緩し、その存在を知らしめる そして恥じらいも無く開いたその股からは零れ落ちるは、穢れた白濁の液 完璧だった。 芸術だった。 即死だった。 何が死んだって、そりゃあ理性なんてせこいもんじゃない 俺の人間性、十数年で培ったものすべてが死んだ。 もう、どうでも良かった。 終わらない夏を終わらせるとか、終わらせないとか 俺の体力が限界とか、限界でないとか 長門有希が気を失っているとか、いないとか すべてがどうでも良かった、つまるところ俺は人でなしになってしまった。 人でないが故に俺は、気絶する長門に襲い掛かった。 END **おまけ** 人でないが故に俺は、気絶する長門に襲い掛かった。 …が その前に生尻をがしっと掴まれた。 胸の奥底から火山の如く湧き上がる恐怖を無視して振り返ると、そこに クスクスと笑う、もう一匹の人でなしの獣がいた。 「つかまえましたよ。さぁ―――」 歯がカチカチと音を立てる、喉が引きつり呼吸ができない あぁ、神よ!どうせ殺すならどうか純けつが奪われる前に! 「――――やりましょう」 DEAD END? 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 長門ユキの牢獄
https://w.atwiki.jp/tfei/pages/54.html
わたしは一応の礼儀としてチャイムを押しておいた。朝倉さんは大声で、入って、とわたしに言う。手が離せないのかもしれない。 「……お邪魔します」 「いらっしゃい。ちょっと用意が遅れちゃって、まあそんなに時間はずれ込まないだろうけど、適当に時間つぶしてて。あ、民放じゃなくて、NHKつけてよ。総合じゃなくて教育のほう」 「……ドラマ?」 「このドラマ、長門さんが気に入るんじゃないかと思って。BBCのやつよ……ああ、びわ湖放送じゃなくてイギリスの」 BBC、正式名称を英国放送協会という。ドキュメンタリーなら学校の授業で見たけれど、BBCのドラマを見たことは今までなかった。生物の先生が、世界最高の放送局はイギリスのBBCだ、と言っていたのを、“思わず思い出した”。 ドラマが始まる。三十路過ぎくらいの白人男性と、あまりかわいらしいとは思わない女性が主人公だ(どう見てもキャスティングミスだろうか、それとも意図的に選んだ?)。男性のほうはひょうきん者でおしゃべりで、見かけはユニークだけれど、行動の根底はチャラチャラしていなくて、少しカッコいいかもしれない。 わたしはリビングの机、と言うよりこたつの中に足を入れた。自分の部屋にもこたつを置こうか、と自身に提案する。いや、きっと自堕落になってしまうだろう。風呂にも入らずに一晩中寝たりしかねない。 青い電話ボックスを模したタイムマシンと、それを駆って古今東西を旅する不老不死の宇宙人(と、それに随行する人間の少女)。わたしたちと見た目は同じでも、本質的に違うもの。不思議だった。人間はこんなに面白いドラマが考えつくものなのだ。わたしも少しは見習わなくてはならない。 「ひょっとして長門さん好みじゃなかったかしら?お口に合うかどうか心配で」 少し困ったような顔をする朝倉さん。わたしの思うところはいろいろとあるけれど、とっさに口にできたのは、「……ユニーク」の一言だけ。情けない。もう少し他に言いようがあろうに。 「面白かった?」 「うん」 「良かった。先週たまたま見つけたんだけど、これはきっと長門さんが気に入ってくれると思って」 「……ありがとう」 「どういたしまして。でも日本のゴールデンのドラマより、よっぽどユーモアに富んでるし設定も作り込んであるわよね……もうこれ一本にしちゃおうかしら」 「朝倉さんまで、わたしに合わせなくても」これはわたし個人の趣味なのだ。そこまで朝倉さんに合わせてもらうわけにもいかない。 「まあ、考えとくわ。あ、これからも見に来てくれていいけど、普段は火曜日だからね。今週は国会中継かなんかで1日繰り上げになってたけど」 「火曜日、7時」 「そう。忘れないようにね。ご飯できたわよ」 「うん……これは、カレー?」 「はずれ。ハヤシライスよ」 「……うかつ」 「そこまで言うなら最初から間違えなきゃいいのに」 そう言いながら、朝倉さんは手際よくハヤシライスとサラダを並べていく。「手伝う」 「いいのよ。長門さんは座ってて。お客様に手伝わせるわけにはいかないわ」 「……ごめん」 「ほら、食べましょ。食べないならわたしがもらうけど」 「食べる」朝倉さんに2人分食べさせるなんて。 「じゃ、いただきます」 「いただきます」 朝倉さん、いつもいつもありがとう。そんな思いを、久しぶりの2人での“いただきます”に込めた。この程度では、お礼もお返しにはならないだろう。こうやって少しずつ感謝の気持ちを示すほかに、わたしができることはあるのだろうか。本当は何かしら、いや、何だってやらなければならないのだけれど。 「ほら長門さん、暗い顔しない。せっかく一緒に晩ご飯食べられるんだから、楽しくやりましょ」朝倉さんはやや高揚した声色で言った。 「うん、そうする」わたしはそのほかに、何一つ返せる言葉を持ち合わせていなかった。 「朝倉さん」 「何かしら?」朝倉さんはスプーンを止め、視線を皿からわたしに向け直した。 「なんで、そんなに」 明るくしていられるの、と聞こうと思ったのだが、遠回しに朝倉さんが能天気だと言っているように取られないか心配になって、口を止めた。「そんなに、何?」 「……ううん、何でもない」 「そう。何でも遠慮なく聞いてよ?あ、長門さん、」 「なに?」 「こないだ初めて知ったんだけど、あなた、キョン君と知り合いだったの?」 「……キョン君?」 「ほら、今わたしの前の席にいる人よ。ちょっと目が細くて、モミアゲの長い」 そこまで聞いてピンときた。『彼』だ。今年の春に図書館で会った彼。5組にいるのは何度か見かけたことがあったけれど、なぜ朝倉さんがそれを知っているのだろう? 「昨日、彼に言われたのよ。お前がよくかまいに行ってる生徒、ひょっとして長門って娘じゃないか、って」 「彼は、わたしのことを知っている?」 「どうかな、分からないわね。直接長門さんに会えば思い出すんじゃない?」 「会えば……?」 「そう、会えばきっと彼も思い出してくれるわよ!鈍い人だからあんまりあてにはできないけど……悪い人じゃないと思うわ」 「うん。わたしも、そう思う」 それだけしか言っていないはずなのに、心なしか体温が上がったように感じた。朝倉さん特製の、この熱々のハヤシライスのせいだ。そう考えることにした。 「どうしたの?顔が赤いわよ?」 「別に、わたしは」 「なに?今になって思い出して赤くなってるの?」 「そんなこと、」 「ま、長門さんとキョン君の間に何があったかは知らないけど、仲良くなりたいんだったらわたしに声かけて。またキョン君に言っておくから」 「……わかった」 朝倉さんはどこまでわたしの考えを見抜いているのだろう。わたしと彼がどういう関係だと思っているのだろう。わたしはたいてい朝倉さんと一緒にいるから、まさか恋人同士だなんて思ってはないだろうけれど(そして悲しいかな、実際にも恋人同士ではないのだ)。 「ごめん、ドレッシングしかないわ」 「え?」 「わたしマヨネーズ嫌いだから普段買ってないのよ」 「……うん。わたしも、好きじゃない」 「なら助かったわ。はい」 そう言って朝倉さんは食卓の真ん中に和風ドレッシングのボトルを置いた。いつもわたしの買っているものとはメーカーが違うけれど、さしたる違いもないだろう。 「中華風のほうがいい?」 「こっち」 「そう。あ、使い終わったら次貸してね」 「うん」そう答えて、わたしはドレッシングのボトルを両手で振った。片手で振ると、ボトルについた水滴で手を滑らせてしまうかもしれなかったから。 朝倉さんの薦めてくれた映画は今ひとつだった。あまりにベタだったのもあるし、わたし自身の好みにも合致しなかった。悪い映画だとは言わないが、感動できたかと言えばそれは違う。わたしでも書けるだろう、とはあまり言いたくはないけれど。また原作を探して読んでみよう。全然違った話かもしれないし、また新たな味わいがあるかもしれない。 「こんなにうまいこといくもんかしらねぇ……フィクションだからある程度は目をつぶれるけど、これはちょっとね」 「……」 「2年くらい前だったかな、同じようなストーリーのドラマがあったのよ。火曜日か木曜日か忘れたけどね。あれは逆に間延びしてて面倒だったわ。11時間もあったらどうしても内容は薄まるのよ」 はぁ、とわたしは頷いた。朝倉さんは続ける。 「やっぱりこういうのは形から入らなきゃダメね。まぁ長門さん、見ててちょうだい。あなたはこの映画よりももっともっとかわいくしてあげる。わたしたちに全部任せて。『長門さんオシャレ化計画』はわたしが絶対に成功させるわ!」 朝倉さんは高らかに宣言した。わたしは不思議と嬉しかった。ひょっとしたらわたしは変われるのかもしれない。そんな気がした。 「長門さんは先にお風呂入ってきて。お皿洗っておくから」 「うん」 「お湯は熱めだけど大丈夫?水足してもいいわよ」 「うん。ありがとう」 わたしは服を脱いで、洗面所の隅にまとめた。風呂上がりに持って出るのを忘れないようにしなければならないだろう。明日の朝に着ていく制服がなかったらとんでもないことだ。困る。 仕方がないので、制服は洗面所の真ん中に動かした。これならきっと忘れることはないはずだ……たぶん。 鏡で自分の肢体を目にするたびに、朝倉さんがうらやましくなる。わたしの背丈はいつまで経っても伸びないし、体つきはまったく女性らしくない。胸が大きくなるわけでもなし、腰回りに色気があるわけでもない。(単純に太ればいい、というだけでもないのだが) 顔立ちひとつ取ってもそうだ。彼女のようにきりりとした顔立ちは、この血色の悪い顔にはまったく見えない。代わりにあるのは、おおよそ通っているとは思えない鼻筋と、意志の弱い目、言葉を紡げぬ出来損ないの口。まったくもって、どうしようもない顔だ。どうしてこうもわたしと朝倉さんは違っているのだろう。 わたしはそんな憂鬱をどうしても払いのけたくて、風呂に頭まで浸かろうとした。しかし熱さに弱いわたしが潜るには浴槽のお湯はあまりに熱すぎて、わたしはすぐさまギブアップせざるを得なかった。 朝倉さんに少しでも近づくために、わたしも髪を伸ばしてみようか。いや、ただでさえ手間をかけていない髪だ。伸ばしたりしたら今以上に悲惨なことになる。するとまた朝倉さんに迷惑がかかる。そんなことになってば言語道断だ。わたしはロングヘアーを却下した。 2時間後、わたしは自室に戻り、歯だけ磨いて床に就いた。いや、むしろ布団に潜り込んだ、と言ったほうがいい。寒くて耐えられない。この痩せ細った身体は寒さにも弱いのだ。 Next Back to Novel
https://w.atwiki.jp/lightsnow/pages/35.html
わたしは一応の礼儀としてチャイムを押しておいた。朝倉さんは大声で、入って、とわたしに言う。手が離せないのかもしれない。 「……お邪魔します」 「いらっしゃい。ちょっと用意が遅れちゃって、まあそんなに時間はずれ込まないだろうけど、適当に時間つぶしてて。あ、民放じゃなくて、NHKつけてよ。総合じゃなくて教育のほう」 「……ドラマ?」 「このドラマ、長門さんが気に入るんじゃないかと思って。BBCのやつよ……ああ、びわ湖放送じゃなくてイギリスの」 BBC、正式名称を英国放送協会という。ドキュメンタリーなら学校の授業で見たけれど、BBCのドラマを見たことは今までなかった。生物の先生が、世界最高の放送局はイギリスのBBCだ、と言っていたのを、“思わず思い出した”。 ドラマが始まる。三十路過ぎくらいの白人男性と、あまりかわいらしいとは思わない女性が主人公だ(どう見てもキャスティングミスだろうか、それとも意図的に選んだ?)。男性のほうはひょうきん者でおしゃべりで、見かけはユニークだけれど、行動の根底はチャラチャラしていなくて、少しカッコいいかもしれない。 わたしはリビングの机、と言うよりこたつの中に足を入れた。自分の部屋にもこたつを置こうか、と自身に提案する。いや、きっと自堕落になってしまうだろう。風呂にも入らずに一晩中寝たりしかねない。 青い電話ボックスを模したタイムマシンと、それを駆って古今東西を旅する不老不死の宇宙人(と、それに随行する人間の少女)。わたしたちと見た目は同じでも、本質的に違うもの。不思議だった。人間はこんなに面白いドラマが考えつくものなのだ。わたしも少しは見習わなくてはならない。 「ひょっとして長門さん好みじゃなかったかしら?お口に合うかどうか心配で」 少し困ったような顔をする朝倉さん。わたしの思うところはいろいろとあるけれど、とっさに口にできたのは、「……ユニーク」の一言だけ。情けない。もう少し他に言いようがあろうに。 「面白かった?」 「うん」 「良かった。先週たまたま見つけたんだけど、これはきっと長門さんが気に入ってくれると思って」 「……ありがとう」 「どういたしまして。でも日本のゴールデンのドラマより、よっぽどユーモアに富んでるし設定も作り込んであるわよね……もうこれ一本にしちゃおうかしら」 「朝倉さんまで、わたしに合わせなくても」これはわたし個人の趣味なのだ。そこまで朝倉さんに合わせてもらうわけにもいかない。 「まあ、考えとくわ。あ、これからも見に来てくれていいけど、普段は火曜日だからね。今週は国会中継かなんかで1日繰り上げになってたけど」 「火曜日、7時」 「そう。忘れないようにね。ご飯できたわよ」 「うん……これは、カレー?」 「はずれ。ハヤシライスよ」 「……うかつ」 「そこまで言うなら最初から間違えなきゃいいのに」 そう言いながら、朝倉さんは手際よくハヤシライスとサラダを並べていく。「手伝う」 「いいのよ。長門さんは座ってて。お客様に手伝わせるわけにはいかないわ」 「……ごめん」 「ほら、食べましょ。食べないならわたしがもらうけど」 「食べる」朝倉さんに2人分食べさせるなんて。 「じゃ、いただきます」 「いただきます」 朝倉さん、いつもいつもありがとう。そんな思いを、久しぶりの2人での“いただきます”に込めた。この程度では、お礼もお返しにはならないだろう。こうやって少しずつ感謝の気持ちを示すほかに、わたしができることはあるのだろうか。本当は何かしら、いや、何だってやらなければならないのだけれど。 「ほら長門さん、暗い顔しない。せっかく一緒に晩ご飯食べられるんだから、楽しくやりましょ」朝倉さんはやや高揚した声色で言った。 「うん、そうする」わたしはそのほかに、何一つ返せる言葉を持ち合わせていなかった。 「朝倉さん」 「何かしら?」朝倉さんはスプーンを止め、視線を皿からわたしに向け直した。 「なんで、そんなに」 明るくしていられるの、と聞こうと思ったのだが、遠回しに朝倉さんが能天気だと言っているように取られないか心配になって、口を止めた。「そんなに、何?」 「……ううん、何でもない」 「そう。何でも遠慮なく聞いてよ?あ、長門さん、」 「なに?」 「こないだ初めて知ったんだけど、あなた、キョン君と知り合いだったの?」 「……キョン君?」 「ほら、今わたしの前の席にいる人よ。ちょっと目が細くて、モミアゲの長い」 そこまで聞いてピンときた。『彼』だ。今年の春に図書館で会った彼。5組にいるのは何度か見かけたことがあったけれど、なぜ朝倉さんがそれを知っているのだろう? 「昨日、彼に言われたのよ。お前がよくかまいに行ってる生徒、ひょっとして長門って娘じゃないか、って」 「彼は、わたしのことを知っている?」 「どうかな、分からないわね。直接長門さんに会えば思い出すんじゃない?」 「会えば……?」 「そう、会えばきっと彼も思い出してくれるわよ!鈍い人だからあんまりあてにはできないけど……悪い人じゃないと思うわ」 「うん。わたしも、そう思う」 それだけしか言っていないはずなのに、心なしか体温が上がったように感じた。朝倉さん特製の、この熱々のハヤシライスのせいだ。そう考えることにした。 「どうしたの?顔が赤いわよ?」 「別に、わたしは」 「なに?今になって思い出して赤くなってるの?」 「そんなこと、」 「ま、長門さんとキョン君の間に何があったかは知らないけど、仲良くなりたいんだったらわたしに声かけて。またキョン君に言っておくから」 「……わかった」 朝倉さんはどこまでわたしの考えを見抜いているのだろう。わたしと彼がどういう関係だと思っているのだろう。わたしはたいてい朝倉さんと一緒にいるから、まさか恋人同士だなんて思ってはないだろうけれど(そして悲しいかな、実際にも恋人同士ではないのだ)。 「ごめん、ドレッシングしかないわ」 「え?」 「わたしマヨネーズ嫌いだから普段買ってないのよ」 「……うん。わたしも、好きじゃない」 「なら助かったわ。はい」 そう言って朝倉さんは食卓の真ん中に和風ドレッシングのボトルを置いた。いつもわたしの買っているものとはメーカーが違うけれど、さしたる違いもないだろう。 「中華風のほうがいい?」 「こっち」 「そう。あ、使い終わったら次貸してね」 「うん」そう答えて、わたしはドレッシングのボトルを両手で振った。片手で振ると、ボトルについた水滴で手を滑らせてしまうかもしれなかったから。 朝倉さんの薦めてくれた映画は今ひとつだった。あまりにベタだったのもあるし、わたし自身の好みにも合致しなかった。悪い映画だとは言わないが、感動できたかと言えばそれは違う。わたしでも書けるだろう、とはあまり言いたくはないけれど。また原作を探して読んでみよう。全然違った話かもしれないし、また新たな味わいがあるかもしれない。 「こんなにうまいこといくもんかしらねぇ……フィクションだからある程度は目をつぶれるけど、これはちょっとね」 「……」 「2年くらい前だったかな、同じようなストーリーのドラマがあったのよ。火曜日か木曜日か忘れたけどね。あれは逆に間延びしてて面倒だったわ。11時間もあったらどうしても内容は薄まるのよ」 はぁ、とわたしは頷いた。朝倉さんは続ける。 「やっぱりこういうのは形から入らなきゃダメね。まぁ長門さん、見ててちょうだい。あなたはこの映画よりももっともっとかわいくしてあげる。わたしたちに全部任せて。『長門さんオシャレ化計画』はわたしが絶対に成功させるわ!」 朝倉さんは高らかに宣言した。わたしは不思議と嬉しかった。ひょっとしたらわたしは変われるのかもしれない。そんな気がした。 「長門さんは先にお風呂入ってきて。お皿洗っておくから」 「うん」 「お湯は熱めだけど大丈夫?水足してもいいわよ」 「うん。ありがとう」 わたしは服を脱いで、洗面所の隅にまとめた。風呂上がりに持って出るのを忘れないようにしなければならないだろう。明日の朝に着ていく制服がなかったらとんでもないことだ。困る。 仕方がないので、制服は洗面所の真ん中に動かした。これならきっと忘れることはないはずだ……たぶん。 鏡で自分の肢体を目にするたびに、朝倉さんがうらやましくなる。わたしの背丈はいつまで経っても伸びないし、体つきはまったく女性らしくない。胸が大きくなるわけでもなし、腰回りに色気があるわけでもない。(単純に太ればいい、というだけでもないのだが) 顔立ちひとつ取ってもそうだ。彼女のようにきりりとした顔立ちは、この血色の悪い顔にはまったく見えない。代わりにあるのは、おおよそ通っているとは思えない鼻筋と、意志の弱い目、言葉を紡げぬ出来損ないの口。まったくもって、どうしようもない顔だ。どうしてこうもわたしと朝倉さんは違っているのだろう。 わたしはそんな憂鬱をどうしても払いのけたくて、風呂に頭まで浸かろうとした。しかし熱さに弱いわたしが潜るには浴槽のお湯はあまりに熱すぎて、わたしはすぐさまギブアップせざるを得なかった。 朝倉さんに少しでも近づくために、わたしも髪を伸ばしてみようか。いや、ただでさえ手間をかけていない髪だ。伸ばしたりしたら今以上に悲惨なことになる。するとまた朝倉さんに迷惑がかかる。そんなことになってば言語道断だ。わたしはロングヘアーを却下した。 2時間後、わたしは自室に戻り、歯だけ磨いて床に就いた。いや、むしろ布団に潜り込んだ、と言ったほうがいい。寒くて耐えられない。この痩せ細った身体は寒さにも弱いのだ。 Next Back to Novel of T